しょっぱいコーヒー < 下 >

2009-01-15 07:07:07
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日本法人からかかって来た電話・・・それは〝N社落選〟の連絡でした。

「えっ?」 暫し絶句したままの私。

それまでの感触が良かっただけに、「あっ、そうですか。」とは簡単に引き下がれません。

「性能もトップクラスで価格も安いのに、何でダメなんですか?

 納得いく理由を聞かなければ、先方にこんな結論は言えませんョ!」

執拗に食い下がる私に、当初それは言えないの一点張りだった担当者が、これは独り言ですから・・・と前置きして呟いてくれた言葉は、私の膝をガクッと折らせるものでした。

「実績がない。」

本部から、ホテル業界における一流ブランドにキズをつける可能性のあるモノは使わぬよう指示があったからだ・・・というのがその理由で、結局業界最大手の某財閥グループ会社の受注が決定したとの事。

(そ、そんなの最初から分かってることじゃないか!)

そんな独り言を呟いても、どうしようもありません。 ガックリと肩を落とした私は、そのまま椅子にヘタり込んでしまいました。


でもそのままじっとしているわけにも行かず、私は重い足取りでN社に結果を伝えに向かったのです。

受付には、前もって訪問を伝えた私の電話に只ならぬ雰囲気を感じ取ったのか、S常務が既に待っておられました。

「結論が出たんですね?」・・・S常務の問いに私は頷くと、先程の内容をお伝えしました。

「私の力不足です。 お役に立てず申し訳ありませんでした。 

当初のお約束通り、保険の切り替えの話は無かったということで・・・。

では、これで失礼します。」

あまりの情けなさにそう言うのが精一杯、一刻も早くN社から離れたかった私はそう言ってペコッと頭を下げ、帰ろうとしたのですが・・・。

「まぁまぁ、そう慌てないで・・・コーヒーぐらい飲んで行きなさいョ。」

S常務はそう言って私を引き止め、7ヶ月前に社長らと対面した時と同じ応接室に案内して下さいました。

            ウォームハート 葬儀屋ナベちゃんの徒然草-コーヒーカップ

出されたコーヒーに1回口をつけると、S常務が話し始めました。

「渡辺さん・・・いや、今日からはナベちゃんでいいょネ?

なぁ、ナベちゃん。


今回の件、先方がそうおっしゃるのは当たり前なんだょ。 

だから受注できなかったのはキミのせいじゃない。 

気にしないで欲しい。

ウチの会社には、ナベちゃんがそうだったように・・・今まで何人もの営業マンがおいしそうな話を持ち込んできては、バーター取引の申し入れをしてきたんだョ。

中には、受注決まる前から契約を要求する図々しい人もいたけどネ。

でもなぁ、ナベちゃん。 

キミくらいウチの会社のことに首突っ込んで、自分で一生懸命動いてくれた営業マンは今までいなかったんだ。

うれしかったょ・・・本当にありがとう。

確かに当初の約束通り、キミの会社に保険を切り替えるわけにはいかない。 


でもなぁ、オレもこの会社では一応№3の役員だョ。 

少しでもナベちゃんのところに保険契約が分けられるよう、役員会に働きかけてみるョ。

それが私に出来る御礼の印なんだけど・・・それでいいかな?」

・・・私は右手にコーヒーカップを持ったまま、嗚咽を抑えることが出来ませんでした。


今までの長い営業人生の中で、お客さんの前で「ウッ、ウゥッ・・・」と声を上げて泣いたのは、そして自分の涙と鼻水入りのコーヒーを飲んだのは、この時が最初で最後でした。

数日後、S常務から電話が。

「やぁ、ナベちゃん。 この前の自動車保険の話なんだけど・・・さっき役員会で頑張ったんだけどさぁ、シェア5%(と言っても100万円近い保険料) だけしか取れなかったんだけど・・・これで勘弁してくれるかい?」

私はもう胸が一杯で 「本当にありがとうございます。」 と申し上げるのが精一杯でした。

電話を切って上司に報告したところ、返ってきたのは「なぁんだ、おまえ・・・7ヶ月動いてそれだけだったのか?」 というお言葉。

普通だったら、(このヤロウ!)と血管が浮き出そうな言葉にも、その時はそんなつまらぬ感情は全く起きませんでした。

お客様から 「ありがとう」 と言っていただける嬉しさ・素晴らしさを、まだ2年目の駆け出しで体験できたのですから・・・。

〝 もう一度、あの言葉をお客様からいただきたい!〟

それからの私は、その想いだけをモチベーションにして頑張って来れたのです・・・そして、これからも。笑3





こちらの記事はhttps://ameblo.jp/warmheart2003/entry-10174323347.html?frm=themeより引用させて頂いております。