
五目並べ <下>
足音高く、オフィスに入ってきたD社長。
私は知らんぷりして書類整理をしていると、部屋の奥で新聞を読んでいる部長のところに行って怒鳴り散らすのかと思っていたら、私の目の前・・・女子社員の座っているイスに腰を下ろすではありませんか。
下を向いたままチラッと見ると、彼はタバコを取り出してあさっての方角を見ながら一服してます。
(一体、何しに来たんだろ・・・灰皿でも投げてくるかナ?)
見て見ぬふりをしたまま書類整理を続ける私。
部長もD社長の来訪に気づいているはずなのに、読んでる新聞で顔を隠したまま。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
気まずい沈黙が2,3分続いたでしょうか、おもむろにD社長が口を開きます。
「おいっ。」
聞こえないふりをする私。
「おいっ、なべちゃんョ。」
「あれっ? もう口きかないって言ったの、社長じゃなかったですっけ?」
視線を書類に落としたままそっけなく答えると、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
また重い沈黙が2,3分。
そして、再びD社長が口を開きました。
「じゃあさ、口きかなくていいから・・・五目並べやろうョ。」
「・・・・・・・・。」
「なぁ、頼むョ。」
「しょうがないなァ。 喋らないでいいんなら、付き合ってあげますョ。」
私の返事を聞くが早いか、D社長はスタスタと応接セットに移動。
テーブルの下から碁盤を出すと、満面の笑みで私を見つめるのです。
(1ヶ月間誰も相手してくれなかったのが、余程辛かったんでしょうネ。)
私がソファーに座ると、勝手に先手の黒石を真ん中にチョコンと置くと、
「なぁ、ナベちゃん。 明日からもやろうょ・・・な?」
「だから、喋らないって約束でしょうが。」
「あっ、悪かった悪かった。 悪かったから、なっ、いいだろっ?」
「ったく、しょうがないなァ。 頼まれちゃあ、立場上イヤッて言えないし。」
応接セットのすぐ横にあるデスクに座っていた部長は、相変わらず顔の前で新聞を広げたまま・・・でも手にしていた新聞は小刻みに震えていました。
今までは、五分五分の対戦成績だった五目並べ・・・この日は頭を下げたD社長に敬意を表して、殆ど負けてあげましたョ。
えっ、出入り禁止はどうなったのかって?
そんなの、ウヤムヤですがナ。 メデタシメデタシ
【 教 訓 】
将を射んと欲すれば、まず趣味を押さえよ!
こちらの記事はhttps://ameblo.jp/warmheart2003/entry-10598505793.html?frm=themeより引用させて頂いております。

