
伝 記
来週から、いよいよゴールデン・ウィーク・・・旅行や里帰りなどの予定を立てていらっしゃる方も多いことでしょう。
さて今日は、連休中に読書の時間が取れる、特に(クラシック)音楽ファンの方にオススメの著書をご紹介させていただきます。
著者は、青木やよひ 女史。
東京薬学専門学校(現・東京薬科大学)卒業後に出版社勤務を経てノンフィクション作家に転進したという、一風変わった経歴の持ち主ですが、後半生をベートーヴェン研究に捧げ、1959年には世界で初めてベートーヴェンの“不滅の恋人”をアントーニア・ブレンターノとするエッセイを発表・・・以後この説が資料によって裏付けられるなど、その研究内容はドイツ語に翻訳される程非常に高い評価を得ているとのこと。
残念ながら彼女は昨年12月に82歳で亡くなられましたが、同時期に〝遺著〟として出版されたのが、この
『ベートーヴェンの生涯』
蓄積された研究の〝伝記的集大成〟といえましょう。
ベートーヴェンの伝記といえば、ロマン・ロランのものが有名。
同書は、自らをベートーヴェンの親友(秘書)と名乗っていたシントラーの著作 「ベートーヴェンの生涯」 をベースにしていますが、現在では彼の虚言癖が判明しており、その信憑性は著しく低下しています。
青木氏の著作では彼の残した情報を否定し、彼女自らがドイツ・オーストリアを訪れるなどして膨大な資料・書簡等から時系列でベートーヴェンの行動を紡ぎ出し、検証しています。
コンパクトな新書版で文章は簡潔かつ文学的ですが、その中身は非常に濃く・・・人間・ベートーヴェンの歴史と名声と苦悩が、あたかも絵巻物を見ているかの如く読む者の心に沁み込んできます。
高名な音楽家であった祖父への畏敬の念、アルコール依存症となった父親や兄弟とその家族との確執、そして母親への愛情・・・それは市井の人々が抱える家族関係や葛藤とほぼ同じ。
そして様々な女性との恋愛関係やフランス皇帝ナポレオンへの思い、そしてゲーテとの関わりが時の流れとともに描かれ、もちろんバッハ・ハイドン・モーツァルトら偉大な先輩音楽家との関係や、ツェルニーら弟子についても、一歩踏み込んだ記述がなされています。
その中で特に印象深かったのは、彼の残した2つの大曲に関する逸話。
ロマン・ロランに 「音楽史上最も壮大な神曲」 と言わしめた 『ミサ・ソレムニス』 創作に関わる宗教観、そしてこの大曲を完成させたにもかかわらず、その直後から手がけられた 『第九』。
この交響曲の第4楽章ではシラーの〝歓喜に寄す〟の抜粋が使われていることは有名ですが、その冒頭部分、
O Freunde, nicht diese Töne!
Sondern laßt uns angenehmere anstimmen und freudenvollere.
(嗚呼、友よ・・・このような調べではない!
我々はもっと心地よい もっと歓喜に満ち溢れる歌を歌おうではないか)
実はこれ、ベートーヴェンの自作詩なのです。
なぜこれを書き加えたのか? その理由に関する青木氏の推論は、私にとっては〝目から鱗〟・・・毎年末に聴いている 『第九』 を、一段と奥深く味わえそうです。
とかく 「変人」 とか 「引越魔」 等と形容されがちですが、この大作曲家はそんな単純な言葉では片づけられない奥深さがある事を、本書は教えてくれます。
最終章で綴られている、
〝(文学者)ベッティーナ・ブレンターノは二百年も前に、ベートーヴェンについてゲーテにこう語っている・・・
「私たち人類は、彼に追いつけるでしょうか?」
21世紀に生きる私たちにとって、この言葉の意味は重い。〟
この一文こそが、彼の偉大さを端的に物語っているかもしれません。
是非本書を通して、人間・ベートーヴェンに触れてみてください。
こちらの記事はhttps://ameblo.jp/warmheart2003/entry-10510477870.html?frm=themeより引用させて頂いております。

